目的地には私が先に到着した。そして外で待機している店員から整理券番号をもらい、近くの喫茶店で待機していた。ちょうどその頃、携帯にメールが入った。「189番台 北斗の拳」とだけ記載した例の胴元からのメールだった。要はこの台に座って打てばいいという事だ。竜からも台番と機種が届いたかの確認メールが来たので来たことを伝えた。そして再生列の為に店に再度向かった。

その店は特にイベント日でも何でもない日だったのであまり並び客はいなかった。普通に行けば確実に取れる順番でもあったので、私は頭の中で今日一日の流れを確認していた。「店側や客に狙い台があると思わせるような行動を慎むこと」「万が一その台番が取られた場合はその横の台をとりあえず打って辞めるかどうか様子を見る事」「必ず3時間に一回近況報告をメールでする事」「お昼休憩は取っても構わないがとにかく終日ブン回す事」「タバコやドリンクはメダルで交換しても良い事」など、言われたことを思い返していると店のオープン時間になった。

私は店内に入りある程度聞いていた配置図を基に、スロットコーナーの「北斗の拳」の島に向かった。前日のグラフデータを見るふりをしながら台の番号を確認し、自分が座るように指示された台番を確保した。そして竜も目的の台に座れたことを横目で確認すると、渡されたお金をメダルに代えて台を回し始めた。



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それからはただただ台を回し続けた。「ある程度の子役の取りこぼしは構わない」とも言われていたので「スイカ」の取りこぼしも気にせずひたすら回し続けた。私は午前中に1回、午後にも1回ラオウを昇天させることが出来て順調に出玉を増やしていった。竜の方も着実にドル箱を増やしているように見えた。途中経過の報告をすると「かしこまりました。その調子で頑張ってください」とだけ返信が来ていた。私はこの「胴元」の人が誰でどこに繋がっているのか聞いていなかったので、カメラなどで監視されている可能性も踏まえ、とにかく余計な事はしないようにしていた。

そして私のアルバイト時間が終了に近づいてきた頃、店内も多くの客で賑わいだしていた。私はキリの良いところでメダルを流し込み、最終獲得枚数の紙を写メした後に交換所へ向かった。そして交換所で現金に換えた後、最寄りの駅で竜と待ち合わせしてミケさんがいる喫茶店へ向かった。そしてミケさんに会ったところで今日の報告を話した。私は結果的に7万円弱プラスで台も朝から夕方までで8000回転程回せていた。竜も自分と似たような結果だった。お互い現金をミケさんに返すと代わりに給料として1万8千円ずつ手渡された。出玉分の現金をさっきまで持っていたからか、その時は給料をもらってもあまりうれしくは感じなかった。私たちは早々に話を切り上げてその場を離れた。ミケさんはこれからその現金をもって胴元に会いに行くと言っていた。そのタイミングで私は胴元は誰なのか聞いたが教えてはくれなかった。

私と竜はそれから家に帰る為に電車に乗った。帰り途中はお互いにどんな状況だったのか話し合った。竜に「また仕事があったらやる?」と聞かれ、私は「絶対やると思う」と答えた。そして竜とも別れて一人になった頃、次第にアルバイトでもらった1万8千円の給料がうれしく感じ始めた。同時にこんなに楽でおいしい仕事は他にないとも思った。1日中座っていられるし、冷暖房が完備された場所でひたすら好きな事をしているだけで金がもらえる。しかもタバコやドリンクもいわば無料でもらえていると考えれば天職である事は間違いなかった。



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それからしばらくして、私は学校で勉学に励んでいると珍しくミケさんが学校にいるのを見かけたのであいさつした。そしてさりげなく次の仕事があるかどうかの話をすると「すぐに用意できるけど・・・」と少し濁る様な仕草を見せた。私は何かあったのか問い詰めると、どうやらその日の夜に胴元が私と竜の台のデータと出玉の差枚確認をしたところ、私の台だけ大きな差枚があったと言われた。データからの差枚に対して交換したメダルの枚数がかなり少ないとのことだった。タバコや飲み物の分を差し引いても計算が合わなく、最終的には「スイカ」の取りこぼしが原因であるという答えに達したらしい。私は確かに取りこぼしてもいいからブン回すようにと言われていたので間違った事をしたつもりはなかった。しかし胴元サイドとしてはここまで取りこぼす、つまり私がここまで素人とは思ってもいなかったようだ。私は北斗の拳のスイカを揃えるのだけは確かに苦手だった。少し時間を掛けて慎重に狙えば揃えられるのだが回すことを優先した私はことごとく取りこぼした。

私はあまり納得はしなかったが一応頭を下げ、次回からは気を付けるとミケさんに伝えた。それよりもそこまで胴元が確認している事に驚いた。データまで確認できるという事はかなり店側に近い存在が関与していない限り不可能な話だった。私は胴元が店長なのか設定師なのか、それとも他の誰かなのかますます気になった。しかしミケさんは頑なに教えてくれなかったので私は諦めるしかなかった。

そしてそれからも私と竜はしばしばこの打ち子の仕事を継続した。時には一人で、また時には平日に学校を休んで仕事をした。

そしてこの仕事にも慣れ始めた頃、事件は起こった。

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